「自主上映会を開きたいけれど、本当に赤字にならないか不安……」――はじめての主催者にとって、最大のハードルは収支の見通しです。
てんぐシネマ倶楽部の「収支シミュレーター」は、その不安を企画段階で可視化するために作られた無料のツールです。上映料・会場費・観賞料金などを入力するだけで、損益分岐点と3シナリオの収支がその場で計算されます。
この記事では、はじめて使う方が迷わずに試算できるよう、最低限入れる3つの数字、結果の読み方、典型的な3パターンの試算例まで、実際にシミュレーターを開いて確認できる形でご紹介します。
▼併せてAI解説動画を作りました。読み間違いはご容赦くださいませ。
このツールでできること(30秒でわかる概要)
シミュレーターが教えてくれるのは、ざっくり次の4つです。
| 表示項目 | 意味 |
|---|---|
| 損益分岐点 | 何人来れば収支トントンになるか |
| 充足率 | 会場の何%が埋まれば均衡するか |
| 4シナリオの損益 | 30%/60%/90%/100%動員時の収支 |
| 動員数と収支のグラフ | 収入線と費用線が交わる点が分岐点 |
入力欄は最大14項目ありますが、初回は3つだけ入力すれば十分機能します。残りはデフォルト値が標準的な相場に設定されているので、まずはざっくり試算してから細かく詰めていけば大丈夫です。
STEP 1: まずは3つの数字だけ入力する
自主上映会の収支は、おおむね次の3つで90%が決まります。残りの項目は、最初は触らないで構いません。
入力1: 上映料の基本額
配給会社に支払う作品の使用料です。記事「自主上映会の費用はいくら?」で紹介した相場をおさらいすると、
- 自主上映向けの一律料金作品: ¥30,000〜¥50,000
- 教育・啓発系の安価な作品: ¥10,000〜¥20,000
- cinemo型(定額または1人¥600の高い方): 基本¥20,000〜¥50,000+人数連動
候補の作品が決まっていれば、配給会社の公式サイトに上映料金が記載されています。まだ作品を選んでいない段階でも、まずは ¥30,000 で試算してみるのがおすすめです。
入力2: 観賞料金(一般 料金)
来場者から1人あたり受け取るチケット代です。一般的な相場は ¥800〜¥1,200。最初は ¥1,000 に設定しておくと、その後の調整がしやすくなります。
入力3: 会場キャパシティ
借りる会場の収容人数です。目安は次の通り。
- 公民館の和室・小会議室: 20〜30人
- 市民活動センターの中会議室: 50〜80人
- 市民ホールの小ホール: 100〜200人
- カフェ・レンタルスペース: 15〜30人
会場をまだ決めていなくても、想定する規模感(30人? 50人? 100人?)で構いません。
それ以外の項目(会場費 ¥5,000、機材 ¥10,000、告知 ¥10,000、その他 ¥5,000)はデフォルト値が相場通りに設定されています。最初はそのままで試算し、実際の見積もりが出てから差し替えれば十分です。
STEP 2: 結果の読み方を覚える
入力するとすぐに右側の結果エリアが更新されます。読むべきポイントは上から順に4つあります。
1. 判定バー(緑 or 朱色)
シミュレーターが一番最初に伝えるのは、ページ上部の判定バーの色です。
- 緑色のバー = 損益分岐点が現実的に達成可能。GOサイン
- 朱色のバー = 厳しい、または達成不可能。何かを変える必要あり
迷ったら、まずこのバーが緑になるまで設定を調整するのが基本方針です。
2. 損益分岐点 と 充足率
「損益分岐 60人、充足率 75%」と出たら、「会場の75%が埋まれば収支トントン」という意味です。経験則として、
| 充足率 | 評価 |
|---|---|
| 60%以下 | 余裕あり。安心して進められる |
| 60〜85% | ややタイト。集客に力を入れる必要あり |
| 85%超 | 危険ライン。ほぼ満員前提なので設定見直し推奨 |
| キャパ超過 | 不可能。会場変更か料金見直しが必須 |
3. メトリクスカード4枚
「現実シナリオ(60%動員)」と「満員時の損益」を見比べると、現実と理想のレンジ感がつかめます。両方とも黒字なら安心、現実が赤字でも満員で黒字なら頑張りどころ、満員でも赤字なら設計から見直しです。
4. グラフ
緑の線が収入、朱色の線が費用です。2本が交わる点が損益分岐点で、グラフ上には朱色の点線(分岐点)と紺色の点線(満員)が引かれます。朱色の点線が紺色の点線より左にあれば緑のサイン、右にあれば不可能の朱色サインです。直感的にわかります。
STEP 3: 3つの典型ケースで実際に試してみる
ここからは具体的な試算例です。下のリンクをクリックすると、その設定がそのまま入った状態でシミュレーターが開きます。
ケースA: 公民館で初めての小規模ドキュメンタリー上映会
近所の公民館を借りて、社会派ドキュメンタリーを30人規模で上映する企画です。
- 上映料: ¥20,000(一律料金の作品)
- 会場費: ¥3,000(公民館の和室)
- 機材費: ¥0(会場備え付けのプロジェクター使用)
- 告知費: ¥5,000(チラシ印刷のみ)
- その他: ¥1,000(保険)
- 観賞料: ¥800
- キャパ: 30人
結果: 損益分岐 37人、キャパ超過、黒字化不可能(朱色の警告)
最初の試算でいきなり朱色の警告が出ました。観賞料 ¥800 では足りていません。ここで観賞料金を ¥1,200 に上げてみましょう。
結果: 損益分岐 25人、充足率 83%、緑のGOサイン
ぎりぎり緑になりますが、充足率83%はまだタイトです。さらに余裕を持たせるなら、キャパ50人の少し大きな会場に変えるのが定石です。
学び: 小さな会場での一律料金は要注意。観賞料を相場の上限(¥1,200程度)に設定するか、会場を一回り大きくすることを検討しましょう。
ケースB: cinemo型作品の落とし穴
社会派の人気作を市民ホール小ホールで上映するケース。配給会社が cinemo 型の料金体系(定額¥30,000または1人¥600の高い方)です。
- 料金体系: 高い方 (cinemo型)
- 基本額: ¥30,000、1人あたり: ¥600
- 会場費: ¥15,000(市民ホール小ホール)
- 機材費: ¥10,000、告知費: ¥10,000、その他: ¥5,000
- 観賞料: ¥1,000
- キャパ: 80人
結果: 損益分岐 100人、キャパ超過、黒字化不可能(朱色の警告)
「キャパ80人なのに分岐点100人」――これが cinemo 型の落とし穴です。動員が増えるほど上映料も増えるため、観賞料が ¥1,000 では追いつきません。観賞料を ¥1,500 に上げると、
結果: 損益分岐 47人、充足率 59%、余裕あり
一気に楽になります。あるいは、観賞料を据え置いてキャパ120人の会場に変える選択肢もあります。
学び: cinemo型作品では、1人あたり料金(¥600)の2.5倍以上の観賞料金を基本ラインにするのが安全圏。¥1,500前後を目安に検討しましょう。
ケースC: 助成金が取れた場合
ケースAと同じ条件で、地元の社会福祉協議会から ¥20,000 の助成金が下りた場合を試算してみます。
結果: 損益分岐 12人、充足率 40%、余裕あり
ケースAでは黒字化不可能だった同じ条件が、助成金 ¥20,000 を入れただけで「12人で均衡」に変わります。観賞料 ¥800 のままでもです。
学び: 公益性のあるテーマ(社会問題、福祉、教育、地域活性化など)の上映会は、自治体や社会福祉協議会の助成金を取れる可能性があります。元記事のFAQでも触れたとおり、文化振興課や社協への問い合わせは試す価値が大いにあります。
よくある勘違いと対策
シミュレーターを使ううえで、初めての方が陥りがちな4つの勘違いをまとめておきます。
勘違い1: 上映料 = 観賞料金だと思ってしまう
「上映料」は配給会社に支払う作品の使用料、「観賞料金」は来場者から受け取るチケット代です。まったく別物なので、入力欄を間違えないように注意してください。
勘違い2: 動員 = キャパだと思って計画する
経験則として、自主上映会の現実的な動員は キャパの60〜70%程度です。「100人入る会場だから100人来る」前提で計画すると、ほぼ確実に赤字になります。シミュレーターの「現実シナリオ(60%動員)」が黒字かどうかで判断するのが安全です。
勘違い3: 物販・カンパを当てにしすぎる
物販・カンパの「1人あたり平均」は、控えめに見積もるのがコツです。自主上映会のカンパは平均すると1人 ¥100〜¥300 程度。¥500 を超える設定は楽観的すぎます。最初は 0 のままで試算するのが無難です。
勘違い4: 充足率 100% を目標にする
「100%埋まれば黒字」という設計は、実質的には赤字確定です。雨が降っただけで簡単に動員は落ちます。充足率の目標は60%以下を基本にしましょう。
試算が終わったら、次の一手
シミュレーターの結果に応じて、次のアクションが変わります。
| 結果 | 次の一手 |
|---|---|
| 緑のGOサイン(充足率60%以下) | 配給会社への正式申し込みへ進む |
| 緑のGOサイン(充足率60〜85%) | 進められるが、告知に力を入れる必要あり |
| 朱色の警告 | 観賞料金・会場・作品のいずれかを変えて再試算 |
設定が決まったら、画面下の 「設定URLをコピー」 ボタンを押せば、現在の試算条件を含むURLが取れます。これをチームメンバーや会場担当者と共有すれば、全員が同じ条件で議論できます。Xで主催仲間に相談したい時は、「Xで共有」 ボタンが分岐点の数字とURLを自動で投稿文に埋め込んでくれます。
まとめ|数字が企画の自信になる
収支シミュレーターは、自主上映会の最大のリスク(赤字)を企画段階で可視化するための道具です。最後にポイントを4つだけ。
- 初回は 上映料・観賞料金・キャパシティの3つだけ 入れればOK
- 充足率 60%以下 を目標に設定する
- 緑のGOサインが出るまで、観賞料金や会場を調整する
- cinemo型作品は 1人あたり料金の2.5倍以上 の観賞料金を基本ラインに
迷ったら、何度でも試算してください。たかが数字、されど数字です。「これなら大丈夫」という確信は、紙の上の計算からしか生まれません。
記事「自主上映会とは?やり方・費用・会場・上映可能な映画まで初心者向けに完全ガイド」とあわせて、はじめての一歩を後押しする道具として使ってもらえれば嬉しいです。
※本記事の数値は2026年4月時点の参考相場をもとにしています。実際の上映料金・会場費は配給会社・施設の公式サイトで最新情報をご確認ください。

